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やはりピーターはすごい!!その2

2017/07/05

「The Techniques of Rug Weaving」というラグ織りの技法書のことを先日書きました。長い間その本の日本語版の出版を諦めていたのですがやはりなんとかしたいと思い始めているこの頃です。そこでピーターのことをもう少し詳しく書いてみようかなと思います。

1922年イギリス生まれ、父は医者で生理学者、母は古典学者でした。また彼の大叔父さんはあの「不思議の国のアリス」で有名なルイス・キャロルでした。そんな家庭で育った彼は当然のように医者になったのですが赤十字の医者としてオーマンに赴任していた時に出会った織り物に魅せられ自分でも織り物をしたくなったようです。そして家族の反対を押し切ってその当時染織家として一番名の知れていたエシル・メレーの工房に入って織り物の勉強を始めました。その後もふたりの工房に入ったりしながら織り物の勉強をし1952年にロンドンに工房を設立しました。

安定した収入のある医者を家族の反対も押してやめ織りものを自分の職業として選んだのですからなんとしても「織り」で食べて行こうとがんばったようです。もともと手を動かすのが好きだったようで質のいいものを早く作れるように道具もいろいろ開発していきました。「いいものを早く」という考えは彼の生涯徹底していました。その為にはどうしてらいいのかを絶えず考えていたと言えます。

たくさんのいろいろな彼の功績を書き始めたら時間がいくらあっても足りません。と云うことで大きな発明とも言える二つのことを簡単に説明します。その一つはMacro gauze という技法です。織りものの基本は経糸と緯糸が直角に交わるということですが彼が考えついた方法では経糸どうしが交差したり捩じれたりすることも可能で3Dにも動けるという技法です。この技法を使ってのタペストリーは他には見れない独特のものです。(写真参照)もう一つはShaft Swiching というものです。織りものでは経糸を一度織り機にセットするとそれらの経糸を上下させる綜絖という装置からは動かせられないのは誰もが知っていることなのです。しかし彼のあみ出した装置を使えば経糸が綜絖間を行ったり来たり出来るとようになります。それによって織りだせるパターンの自由度がとてつもなく増えることになりました。これら二つの技法、特許を取ろうと思えば十分に取れたものと思います。しかしピーターは自分でも織りもので生計を立てるのに苦労をしてきたことからひとりでもこれらの技法を使うことで暮らしが成り立つのであればという気持ちからあえて特許を取らなかったと話してくれました。技法のことではまだまだ書きたいことが山ほどですが今日はこのくらいでやめておきます。

1964年に工房をNayland に移した後、かれの活躍は世界中に知られるようになりアメリカには毎年のように講習会をしに行っていました。1969年にはVIctoria & Albert Museum で生きている工芸家としては初めての展覧会を陶芸家のHans Coper と一緒に開きました。また1974年にはエリザベス女王からOBE の称号を貰いました。ただ着ていく服を持っていない(めんどくさい)という理由で宮殿には行かなかったようです。あるとき恥ずかしがり屋の彼はあれは自分の織りものの評価で貰ったものではなく、自分が医者をやめたおかげで何人もの患者を救ったので貰ったんだとにやりとしながら教えてくれました。

ラグ以外にもSprungという技法、Tablet Weavingの技法そしてPry Spritting の技法書など深く掘り下げた本をいくつも出版しています。そのどれもがすばらしいものです。彼が亡くなって約10年未だに彼を思い出し困った時には教えを請うています。

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